君の一縷 

76/86
前へ
/86ページ
次へ
「ごめんなさい。しばらくそういうのは遠慮しとく。ちょっと、今気乗りしないから……。」 私の気持ちを察したのか、母はもうこれ以上は何も言うまいという風に、頷きながらまた微笑んだ。 それから久しぶりの母子の夜は、楽しくふけていったけれど、母が主寝室に戻って一人になってしまうと、途端に気持ちはまた中辻君とのことを思いだしてしくしく痛む。 とにかく休もう。横になろうと照明を消してしばらくした頃、携帯電話が鳴った。  「……メール?」 それは中辻君からのもので、背中に緊張を走らせながら開くと、明日会いたいという旨の内容だった。 今さらなんなの? 反射的にはそう思ったけれど、「見せたいものがある」という一文に、私は見事に引っかかってしまった。 ……違う。 本当は、まだ諦めきれなかった。こんなに切ない目にあっているのに、彼に未練がましくすがりたいだけ。 あなたが今まで繰り返した“遊び”じゃなくて、どうか、私を本気で愛して…… 本能までもが、そう叫んでやまなかった。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加