君の一縷 

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   翌日私は指定された時間に、自宅の裏にある父が昔使っていた小さな実験室に向かった。彼がそこを指定したからだ。 多分、泣きはらした顔はメイクでもカバーできていなかったし、何より心が鉄のように重たかった。 私は一体何をしにいくんだろう……。 真意の見えない彼に会って、また軽い感じで絆されたいの……? そのあとにどれだけ傷つくことになるかも分からない。 騙されるかもしれないのに……? 自分の気持ちさえまとまっていないのに、足は実験室に向かってしまう。 ドアをノックすると、中辻君が変わらない様子で迎えた。 感傷的な私は、すぐに瞳が濡れてしまってうつむいた。
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