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手のひらサイズのガラスケースは、内部に螺旋の細工がしてあって、傾けるとケースの底の小さなボールがなんとも不思議に溶けて、中からさらに小さなメッセージプレートが出てくるものだった。
私はその日見た、「あなたが好きです」というまっすぐなメッセージを忘れたことはなかった。
「あ! オレがそんなロマンチックなことするわけないって? いやいや、やってまうんやなぁ、これが!」
すっかり不穏になってしまった空気を蹴散らすように、彼は大きな声で言って笑ったけれど、私は事実を受け入れられなくて、ぼうっとしたままだった。
あたり前だ。
だってあれがあったからこそ私は菊川さんとつき合うことにしたのだし、今の今まで、あれは彼との短い交際期間の中で唯一素敵だと思えて、今でも間違いなく私の大切な思い出のひとつなのだから。
それが菊川さんの作ったものじゃなかったなんて、簡単に「はいそうですか」とは言えなかった。
「……信じられない。信じたくない、そんなこと。証拠はあるの?」
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