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「そや、昨日なんか勘違いしてたみたいやけど、見合いな…」
「もういいわ。あれは断ります。」
「だから違うって! 帰ってから写真見てみ? 惚れ惚れすんで。」
「……なによそれ。どういう意味なの?」
「ほんまになんも見てへんねんなぁ。……北尾の家に見合い申し込んだんはオレ。中辻の釣り書もつけて、渡してもらったはずなんやけど?」
「………………はぁっ?」
今度はさらに理解に苦しんだ。
それでもため息をつく中辻君の困ったような顔を見ていると、少しずつ事態がのみこめて、すべての屈託が晴れて地に足が着くような感覚がもどってきた。
「なんなのよ、なんなの……もうっ」
私はやっと、笑顔になれた。
さっきまでの涙も拭かずに、彼の胸に顔を押しつけた。
中辻君も安堵したように笑った。
「オレな、ぶっちゃけ結構遊んでん。でも何年経っても、あぐりの事だけが忘れられへんかった。あぁ、やっぱりオレの運命の人は北尾あぐりなんやなぁって。……まぁ、勘やな! 勘! ハハハ!」
「……結婚なんて大事なことを、勘なんかで決めていいの?」
「うーん。あんま考え過ぎてもあかんちゃう? それに会ってみて大正解。やっぱりあぐりに、惚れてました。」
また顔を覗きこんでそんな事を言うから、ドキドキしてしまう。
「オレ、あぐりとの結婚で後悔するなら本望や。」
―――― そんないい顔でサラッと言わないで。
「中辻君が良くても私は良くない。」
「急がんでええよ。待つんは慣れてる。」
「中辻君の“待つ”は遊びながらなんでしょ?」
「アハハ! イケズやなぁ~、もう遊んでませんっ。」
中辻君はちょっとだけうらめしそうに私の鼻を人差し指でついて、また笑った。
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