君の一縷 

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   両家が特殊な家柄だけに、多少は揉めるのではと思っていた私達の結婚は、蓋をあけてみるととんとん拍子にすすんでいった。 一番心配していたのは、うちで働き続けたい中辻君の今後だったのだけれど、中辻のお父さんは、優秀な人材が沢山育っていることと、私達の規模の事業で今時世襲でもないでしょうと結納の席でにこやかに言って、あっさり跡継ぎを手放した。 婿をとらずに娘を嫁に出して、北尾の家は一旦途絶えることになるのに、私の両親もそれを惜しく言うことはなく、両家の縁談を手放しで喜んだ。喜びで母が泣いた時、私はあらためてその心配と愛情に感謝した。 見えない何かに後押しされているかのように、何もかもが順調だった。  ―――― それから式までの間、とにかく忙しくて目を回しそうだったけれど、ひと段落ついた頃、私は中辻君と隣町の霊園に出かけた。
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