プロローグ

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「ごめんなさい。随分遅くなっちゃって」 「ああ、大丈夫だよ」  初めてだもんね、と康司さんは優しい口調のまま続けた。  部屋の中央の照明は消されていて、あの枕元のランプだけが淡い光で室内を照らしていた。深い眠りに誘うような、ゆったりとしたクラシックも聞こえてくる。  ロマンチック。そう表現するのが最適だと思う。その優しい優しい光の中で。康司さんが、おいで、と囁いた。 「想像以上、かな。……可愛い、いや綺麗だよすごく」  甘さを増した康司さんのその言葉に、演技じゃなく、本当に照れてしまった。  ベッドの端に腰かける康司さんの1メートル手前まで近付く。見えないけれど(私はあんまり視力が良くない)、康司さんの視線が私の身体に注がれていることはわかった。  バスタオルは巻いてるけれど、まるで裸体を見られているかのように恥ずかしい。  ――さっきまであんなに私の心を支配していた不安の塊は、跡形もなく消え去っていた。今はもう好奇心が頭をもたげている。  早く早く扉を開けて、とせがむ声が聞こえた。 「優しく、するからね」  そうして私の身体は、柔らかいシーツの中に、ゆっくりと沈み込んだ。
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