プロローグ

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 康司さんの表情は変わらずにこやかだけど、その声色は感情を押し殺したもののように聞こえる。  美人局(つつもたせ)っていうんだっけ、あの……オヤジを脅迫してお金を取るやつ。確か一昔前にテレビで特集やってた。  あの頃はまだ『こんな世界』に興味なんかなくて、騙す方も騙される方も皆カッコ悪い、って思ってたっけ。 「言いにくいんですけど、なんていうか、刺激が欲しいなあって思ったんです。そうしたら、友達にサイトを紹介されて」  落ち着いた声がちゃんと出せているのか、すごく不安だ。即席の言い訳が康司さんに通じるのかも。  こんな時。予想外の事態が起こってしまった時、いつも思う。  あの子は――冷静沈着を絵に描いたような親友、美穂(みほ)は、表情一つ変えることなく巧みに危機を乗り越えるんだろうな、と。  膝の上で掌をギュッと握り締める。  今、頼れる美穂はいない。  急に心細さが喉を締め付けた。 「刺激、かあ……。でもその気持ち、なんとなくわかるよ。若い時は誰でもそう思うんじゃないかな、きっと」  康司さんの表情がほんの少し和(やわ)らいだ。けれど、まだ完全じゃない。
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