プロローグ

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「少し冒険してみたくなったんです。好き勝手に遊べるのも今のうちかな、って思って」  媚びのない、落ち着いた微笑みを浮かべながら。康司さんの表情に現れるちょっとした変化も見逃したくはないと、神経を集中させる。  昔、美穂に言われたことがある。  ――あんたは少し頭が悪いけど、どんな小さな変化も見逃さない優秀な観察能力がある。殺すなんて、もったいないよ。  絶望の中にいた私に美穂はそう言った。  私には見つけられなかった『私自身』を、美穂は、見つけてすくい上げてくれたんだ。 「……ごめんなさい。遊ぶ、だなんて。聞いてていい気分しないですよね」 「いやいや気にしないよ。それから、僕こそ謝らなくちゃいけない。君を疑ってしまって」  苦笑を浮かべて康司さんは言う。そして、とりつくろうように食事を再開した彼を見て、私は息をついた。  ああ良かった。どの言葉に安心したのかは知らないけど、これでもう、よほどのことがない限り目的は達成されそうだ。  少し冷めたピザの、最後の1切れを口に運ぶ。康司さんのハヤシライスもあと2、3口分しか残っていない。  さて。いよいよ、かな。
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