プロローグ

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 1年前の冬。付き合っていた同級生と初体験をした時より、今の方がずっとずっと緊張している。普通なら逆……というか、普通の女の子は援交なんてしないか。  月日が流れるにつれて色んなことを学んだ。世の中、綺麗事だけじゃ成立しないことも知った。  好きでもない人と付き合ったり、抱き合ってキスをしたり。それ以上のこともした。  不純だと後ろ指をさされそうなことを散々繰り返してきたけれど、心が揺れるようなことはただの一度もなかった。  どんな時でも、どんなことをしても、私の心は絶対的な冷たさに支配されていたはずなのに。  心が騒ぐとはまさにこのことだ。 「落ち着け、落ち着け……」  このあとの展開を想像する。あのオジサマの掌が自分の身体を這う、その様子を思い浮かべる。  大丈夫、いつもの通りにすればいい。相手が初対面のオジサマってだけで、他は何も変わっていない。  真っ白な素肌に何度も言い聞かせる。  ああ、でも……。どうしてだろう。どうして緊張なんかしているの。  意外だった。「援交なんてちっぽけなことだ」と断言していた私が、こんなところで不安を感じているなんて。
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