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「・・・やります。」
「・・・ほぅ。」
最初こそ驚いた表情の店長だったが次第に笑みに変わっていく。
恐ろしいほど、黒い笑みに。
・・・この顔は・・・私が仕事でへました時、ここぞといわんばかりに説教してやろうと意気揚々としているときの店長の顔だった。
「・・・わかった。じゃあ試練を受けるんだな?」
無言で頷く。
「・・・よし。途中で放棄はナシだかんな。覚悟しとけ。」
先ほどの黒い笑みを残したまま店長はパチンと指を鳴らした。
音と同時にクリーム色の世界に“果て”が現れた。
その先は真っ暗で何も見えない。
「今回の試練の舞台は、幕末だ。お前、幕末ご存知?」
幕末・・・江戸時代から明治時代にかけて変わる間の激動の時代。
京香は高校生のとき、世界史選択だったので日本史はサッパリだった。
「坂本龍馬・・・とか?」
なんとか知っている人物の名を言ってみる。
「ああ、そうだ。だが今回お前のが身を投じるのは“そっち”じゃない。」
店長はニヤリと笑い続ける。
「お前は“倒幕派”ではなく、“佐幕派”につくことになる。」
「・・・砂漠派?」
「・・・とにかく、坂本龍馬とは敵なんだ。だから、気をつけろ?」
京香のアホさに、ため息交じりで説明を続ける。
「でここからが本題。お前の試練だが。」
ゴクリと息を呑む。
「仲間と協力して、幕末の京都でライブを行え。そして観客を1万人集めろ。1日で、だぞ?」
頭の中が、真っ白になった。
「1万人なんて・・・そんな無茶な・・・」
「何言ってんだ。幕末では京都が一番人口が多かったんだぞ。」
「でも・・・1万人なんて・・・今までたくさんライブやってきたけど・・・集まってもせいぜい100人とかだったのに・・・」
言い終わった後、絶望を感じた。
「だから言ったろ?生きるってのは、簡単なことじゃねぇ。お前は、甘い。どうだ?諦めるなら、今だぞ?」
無理かもしれない。
でも、
可能性は・・・ゼロじゃない!!
「絶対に帰ってみせる!」
店長はフッと笑い
「そう来なくっちゃ。」
と再び指をパチンと鳴らした。
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