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優しくて大きな手・・・
涙が止まらない京香を慰め、健太もまた意を決して京香を見据える。
「・・・京ちゃん、聞いて?俺、来年の春から転勤になったんだ。東京へ行く。」
その瞬間、溢れていた涙が止まった。
「どういう・・・こと?」
驚いた表情で健太を見つめる京香。
「本社へ行って勉強して来いって。こんなチャンスもうないと思う。」
そう言う健太の表情は凛々しく、揺ぎ無い決意を物語っていた。
「だから・・・「嫌っ!!」
健太の言葉を京香が遮る。
「ケンちゃんまで・・・あたしを置いていくの?お父さんもお母さんもみんな・・・。」
再び京香の目に涙が溜まる。
「ちがう、最後まで聞いて?京香の両親の離婚を踏まえて考えて欲しいんだけど・・・一緒に東京に行かないか?」
――え?
「京ちゃんはどう思ってたかわかんないけど・・・///俺は前から京ちゃんと結婚したいって思ってたし、京ちゃん1人残して行きたくないし・・・勝手だけど考えて欲しい。」
そういう健太は照れながらも真っ直ぐだった。
――本当はあたしもついていきたいの!
これがその時の本心だった。
でもあたしの口からは本心とは違う言葉が出る。
「そ・・・んな急に言われてもわかんないよっ。」
その時のあたしの頭の中はぐちゃぐちゃだった。
両親のこともバンドのことも、将来のことも。
本当は嬉しかったくせに素直になれない自分がいて。
一緒に行こうと誘ってくれた健太までも勝手だと思ってしまっていた。
「ゴメン、考えさせて・・・」
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