15人が本棚に入れています
本棚に追加
その夜は泣いているような満月が辺りを明るく照らし出していて、静寂が世界を支配しているかのようだった
旅の途中立ち寄った街に宿をとり、各々の部屋に戻ってからもティナは眠る事が出来ず月に誘われるように部屋を抜け出した。
月光を浴びて煌めく青銀にも似た翡翠色の髪をサラサラと宙に踊らせながらあてもなく歩いていく。
ちょうど街の中心にあたる広場に着くと腰を降ろし夜空を見上げる。
――泣いているような満月――
ティナはそっとため息をついた。
モブリズで過ごした日々の中、愛を知らなかった少女は孤児たちから無償の愛情を一身に受け、また己の内にある感情が『愛』であることを悟った。
穏やかで温かな『母性愛』
そして、大切な仲間たちに抱く感情も、また一種の『愛』だと。
……ただエドガーに対する感情は他の仲間に抱く感情とは別物に思えた。
大切な事には変わりない。
けれど、時に痛みを伴い苦しさを覚える。
フェミニストだという彼はその通り女性には無条件に優しい。
微笑み、他愛もない会話を交え、優しく手をさしのべる。老いも若きも隔てなく、誰にでも。
その都度ティナは胸が苦しくなるのだ。
――こんな感情は知らない――
最初のコメントを投稿しよう!