プロローグ

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 男が二人、息を切らしながら大通りを駆けていた。露店の品を求める買い物客で賑わう昼下がりの出来事である。  行き交う人々は何事かと男たちを振り向いた。特に道の中央を歩いていた者は慌てて横に飛び退き、危うく店先で煮込まれていたジャムに突っ込みそうになっている。そんな事もお構いなしに走る二人のうち、前を行く巨体の男が時折背後を振り返る。舌打ちと共に。  彼の斜め後ろにいるのは、気の小さそうな細身の中年男。その手に握られている鞄は不自然な程に膨れており、それが彼の動きを鈍らせているようだ。彼もまた、巨漢の鋭い視線に肩を震わせながらもちらちらと背後を気にしている。  先を行く巨漢が、角を右に曲がった。やや遅れて、中年男が続く。二人が駆けたせいで左右に分断された人だかりが、再び合体して一斉にざわめいた。露店の者でさえ彼らの会話に加わっている。その脇で子どもが二人を追おうと走り出した。真っ青になった母親が慌てて我が子を連れ戻そうとしたとき。 「はいはーい、皆さんどいてどいて! ついでにそこのガキ!! 下がってな!!」  二人が走ってきた方向から響いた威勢のいい声に、民衆の注目が集まった。
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