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聞き返すウィルに、タツキは明確な答えを示さなかった。さあな、と適当に濁した後は、その場で軽く伸びをして肩を回す。それから少年を向き直り、早口にこれだけ告げた。
「姉ちゃんがお待ちかねだ。早く行け」
ウィルからすれば煙に巻かれたようなものだったろうが、しかし彼は素直に頷いてみせたのだった。
「――あの、バートさん。そろそろ行った方が……ここでいつまでも躊躇してても何もなりませんし」
小声で提案するシェリーの口調からは焦燥感が垣間見えた。彼女は数分前から幾度かこう繰り返していたが、バートは必要以上に慎重なところがあるようで、なかなか一歩を踏み出そうとはしない。
二人は何とか外に出る事には成功したが、争いを続ける村民達の間には入れずにいた。今の彼らは村長宅の脇にある大木に隠れて時を窺っている状態だ。その間にも争いはさらにエスカレートしていくように見える。今は素手での軽い押し合いにとどまっているが、彼らがいつ武器を持ち出すかは時間の問題であろう。
「あの、――」
バートの肩を軽く揺さぶったシェリーは、それが小刻みに震えている事に気付いて言葉を飲み込んだ。
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