捧げる祈りに癒しの光を

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 心外だと言うように食ってかかった女に、男はだいたいなぁ、と話を続ける。 「治癒術が効かない原因なんかもうわかってるだろ。調査してるのは村長夫人であって村長じゃねえしよ。そりゃそうだ、病の床に伏した村長を孫娘が助けようとしてんのがそもそもの理由なんだから。村のシスターに聞いたら神に交渉してんだっけか? 無理してないで戻ってくりゃいいのによ。老い先短いジジイのために村名物の治癒術を食い尽くすなんて愚の骨頂」  なぁ、そうだろ――男は拳を振り上げ、自分の後ろに控えている仲間達に同意を求めようとしたが、しかしそれは少女の声によって遮られる。 「……今、なんと仰いました?」  柔らかいながらも静かな怒りがこもった声だった。バートですらも目を見開きながら彼女を、シェリーを凝視してしまう。空間を取り巻いていたざわめきが、一気に収束していった。  シェリーは臆する様子も見せずにまっすぐ男を見上げ、背筋を伸ばして言葉を繋げる。 「老い先が長かろうが短かろうが、人の命に変わりはありません。それもこの村を今の方向へ導いてくださった村長様の命ですよ。そのような軽い口で語るものではありません」
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