捧げる祈りに癒しの光を

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 シェリーは真剣な表情でバートを見つめ、彼の言葉をひとつずつ噛み締めているようだった。女性に凝視されたバートは若干照れくさくなったのか、頭の後ろをかきながら苦笑と共にこのように付け足す。 「えーっと、ほら、なんて言うのかな。なんかあるじゃん、そういう変なプライド。素直になるのを邪魔する感情? あんまりうまく言えないけど、そういうのが働いて、つい思ってもない事言っちゃったんじゃないかな、あの人。素直になれば歩み寄れる、微妙な距離感」  いつの間にか、身振り手振りも付け足されていた。素直になれば歩み寄れる、微妙な距離感――女が口の中でそう反復する。そういえば彼女も、男の前でご機嫌な自分を見せたくないと意地を張っていた。彼らが拠り所にしていたであろう治癒術を失った事から生まれた心のひずみ――そんな感情が、いつの間にやら互いの心にズレを生じさせていたのだ。 「感情が高ぶると、どうしてもそうなる事があるからね。しょうがないよ。今回の騒動、多分本当は、誰も悪くないんだよ」  そう笑うバートだけは不思議と負の感情に支配されない余裕を持っていた。臆病ではあるが、平和主義で穏やかな性格がそうさせるのか。
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