捧げる祈りに癒しの光を

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 二人の会話を断ち切るように、外から歓声が上がったのは直後だった。村名物の治癒術が戻ってきた事に村民が気付いたのか――フローラの頬が自然と緩む。良かった、と呟きが漏れた。同時にはっと思い立った彼女はフィルを見る。突然フローラと目が合ったフィルは、明らかに動揺した様子で彼女を見上げた。 「な、なに?」 「フィル君、ちょっと」  フローラはフィルの額に手を伸ばし、ライトブラウンの細い髪を払いのけながら優しく触れる。少年が苦痛に顔を歪めたのはほぼ同時だった。前髪に隠れていたこめかみの、小さな痣が姿を現す。 「じっとしててね?」  フローラは指先に淡い白の光を生み出した。目元のまばゆさに思わず両目を閉じるフィル。多くの人間が見守る中、フローラは目を閉じ、神の幻に祈りを捧げる――。  脳内に出来た小部屋に、意識を飛ばす。足を踏み入れ、目の前に佇む神の偶像の前に跪き、両手を組んで祈りを捧げる。すると神が軽快なステップを踏む気配が伝わってきた。簡単な傷なのでさほど苦労はしない。  フローラは静かに目を開ける。体中に血が巡り、生きている感覚が呼び戻された。無論、フィルの痣はきれいに治っている。
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