捧げる祈りに癒しの光を

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「……あの、本当にそうしてあげてください」  不意に響いた柔らかなソプラノに、全員が耳を傾ける。バートだけは頭をさすりながらという何とも間抜けな格好だったが、それでも目は彼女を向いていた。  シェリー本人は背筋を伸ばして男に向き合う。その清らかな笑顔は天使としか形容のしようがなかった。あまりの神々しさに、体格のいい男ですら一瞬たじろぐ。 「祈る姿が美しいのは、それが誰かのためだからです。今回の件で、この村の皆さんはそれがよくお分かりになったと思うのです。ですから祈ってあげてください。祈りは、決して無力などではないのです」  終始穏やかで、抑揚のない口調だった。しかし、彼女の言葉には魔力があった。胸に落ちて、少しずつ染み渡っていく不思議な説得力があった。  男は小柄な彼女を見つめ、ただ頷く。  シェリーも同様に頷いて返し、無邪気な笑顔を見せる。  太陽は燦々と降り注いでいた。元の平穏が戻った小さな村は、今度は祭りが近いからとせわしなく人が行き来している。彼らの表情に昔と同じ笑顔が戻った事を、フローラは誰よりも嬉しく思った。  二日掛かりの大仕事は、こうして幕を閉じたのだった。
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