影差す太陽

2/17
前へ
/848ページ
次へ
 一種の統一感をもって立ち並ぶ墓標の中心に、彼女はただ一人、佇んでいた。全身を黒のシンプルなワンピースで覆っている事もあり、空虚な灰色の世界に、輝く金髪が映える。腰まで届く緩やかなウェーブは、この空間でただひとつだけ色を有していた。  ただひとつだけ、生きていた。  彼女は両手に小さな花束を抱え、食い入るように墓標を眺める。深く澄んだ海のような目を伏せると、そっとその場に腰を下ろし、そばに花束を供えた。この墓は誰かが頻繁に足を運んでいるようで、両隣に位置するそれと比べ、手入れが行き届いている。  墓前にて彼女は静かに両手を合わせ、しばし目を閉じる。風が髪を優しく撫でた。慰めるように。  やがて目を開けた彼女は、墓標をまっすぐに見つめながら静かに語り掛ける。 「――マナさん。お久しぶりです。お墓、随分綺麗にされてるのね」  墓は答えない。ただ黙って聞いているだけ。解っていても、彼女は語りを止めない。 「あれからもう六年よ……。未だに来てくれるなんて、マナさんはよほど愛されているのね。ずるいわ、私なんて貴女の顔も知らないのよ。話に聞くばかりだったの。――貴女の彼の、幼なじみとして」
/848ページ

最初のコメントを投稿しよう!

350人が本棚に入れています
本棚に追加