辿り着いた、その先に

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 クリアの向かった場所について、これといったあてはない。ただ、細々と考えるより先に、なんとなく身体が動いてしまっただけなのだ。  タツキは服のポケットに両手を突っ込みながら、ぼんやりと歩いていた。そうしていると、自分に起きたすべての事が、夢だったような気がしてきた。  物心ついたときから、前世の記憶をすべて持っていた事。自分の中に、最初の前世『シリウス』の存在を感じていた事。その現実が非常識と解ってからは、自分に宿る前世の記憶を、必死に隠しながら生活していた事。そのすべてが、夢のような気がしていた。  ただ、そうと言い切れない現実もある。一度死んでから生まれ変わって、かつての家族や恋人に巡り会っても、誰も自分の事を知らない――そんな生活を四千年も続けたタツキは、道化の顔の裏で、人知れず孤独を味わっていた。人と分かち合う事が出来ない孤独を、一人で抱えて生きてきた。  シリウスがいなくなった今も、タツキの心から前世の記憶が消えた訳ではない。ただ少なくとも、あの孤独感からは解放されたような気がした。仲間達がこぞって自分を心配してくれた、というのももちろんあるが、彼にとって一番衝撃的だったのは、マナの墓の前で呟く幼なじみの姿だった。
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