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上着の内側に手を突っ込み、残りの薬を取り出すと、それをすべて飲み干した。小瓶を遠くに見えたゴミ箱に放り投げると、内側の縁に当たったのち、中にぽとりと落ちる。
ちょうどその直後だった。後ろから、軽快なリズムの足音が走ってくる。しかしその足音は、走っているにしては非常に小さかった。一応は気配を消しているつもりなのかもしれない。
背中へと近付く足音が、妙にご機嫌なリズムを取っている。スキップでもしているのだろうか。前を歩くタツキが気付かないはずはないのだが、今は足音の主に合わせて、知らないふりをしてやろうと思った。
リズムが不意に途切れたかと思うと、左腕が何かにふわりと包まれ、引き止められる。
「ふふっ、つかまえたーっ!」
無邪気で嬉しそうな笑い声が、耳のすぐ下で聞こえた。視界の端に、金色のソバージュが広がる。彼女は自分の左腕を勝手に抱き寄せ、そこに頬をすり寄せていた。
相も変わらず、不自然なくらい能天気な彼女に、言葉より先に溜め息が漏れる。
「今日も逃げないでいてくれるの? 嬉しい! ねえ、どこ行くの? 私も一緒に行っていい?」
クリアは努めて明るく振る舞っていた。そうさせてしまったのは、紛れもなく自分だ。
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