辿り着いた、その先に

211/221
前へ
/848ページ
次へ
「……お前こそ、どこ行ってたんだよ」 「私? 私はねえ――」  クリアは片手でタツキの腕を掴んだまま、もう片方の手の人差し指を自分の頬にあてる。考えるときに人差し指を使うのは、彼女の昔からの癖だった。どれだけ外見が大人になっても、彼女は彼女のままであるらしい。  小難しい顔をしていたクリアが、不意にパッと表情を輝かせた。弟とよく似た蒼い瞳の中に、彼とはまったく違う無邪気な光が宿る。 「――そう! カーディガン替えに行こうと思ったの。ほら、長袖だったのに、片側だけ破れちゃったから」  クリアは片腕をピンと伸ばして、自慢げに見せてくる。確かに、カーディガンの破れた袖からは、すらりとした白い腕が伸びていた。  タツキは直感で嘘だと思う。ただ、思うだけに留めて口には出さなかった。表面的には、ふーん、と退屈そうな声で呟く。そうしながら、自分に絡み付くクリアの腕を解き、自分の上着を脱いで彼女の肩に被せた。首もとにファーのついた黒い革素材の上着を着せられ、クリアは頬を染めつつ首を傾げる。 「男もんだけど、ないよりいいだろ。一人ならちょっと付き合え」  タツキはクリアの返事も聞かず、やや強引に彼女の手を引く。クリアは戸惑いがちな表情をしていたが、いったん手を引かれると、もう片方の手で上着を押さえながらおとなしくついてきた。
/848ページ

最初のコメントを投稿しよう!

350人が本棚に入れています
本棚に追加