350人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねえ、お話があるならここがいいな」
今まで黙ってついてきていたクリアが急に腕を引いたので、タツキは驚いて立ち止まる。見るとそこは、クリアを時計台から救い出すときに通ったバルコニーだった。そこに立てば、真っ正面に時計台が見える。クリアが捕らわれていた鐘の間も近い。
「いいけどお前、自分が捕らわれてた場所眺めながら話して楽しいか?」
「でも、あなたが助けてくれた場所でもあるわ。だからここがいいの。今日だけでいいから、わがまま言ったらだめ?」
深い海の色によく似た、透き通った瞳がまっすぐにこちらを捉えてくる。そこまで懇願するのなら、タツキに断る理由はなかった。無言のまま、彼女の脇からバルコニーに入る。それを見ると、クリアの表情もパッと輝き、小走りで後に続く。
自分の隣に並んできた彼女の顔は、何も言わなくても解るくらいに華やいでいた。心の底から嬉しそうだった。
「あのね、ありがとう」
「なんだよ急に」
「お礼はたくさんあるわ。私を助けてくれた事でしょ、それに、私のわがままを聞いてくれたこと。あなたってほんとに、ヒーローみたいな人ね」
満面の笑みでそんな事を言われ、タツキは気恥ずかしさで思わず顔を逸らしてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!