辿り着いた、その先に

215/221
前へ
/848ページ
次へ
 クリアはしばらくあどけない声を立てて笑っていたが、不意にその表情を引っ込める。そのときの彼女は、タツキにとっては見慣れない、どこか寂しげな顔をしていた。横顔でもそうと解るくらいに、物憂げな顔をしていた。 「あのね……。ほんとは私、あそこにいるのが場違いみたいな気がしたの。だって私、皆さんとそんなに話したこともないし、目立って何かしたってわけでもないから。だから、つい抜け出しちゃった」  珍しく饒舌な彼女の言葉に、タツキはじっと耳を澄ましていた。彼女はしばらく時計台を眺めて静かに話していたのだが、突然タツキの方を向くと、声のトーンを上げて、明るい口調に変えてくる。 「ね、たっくん。私、ちゃんと解ってるのよ。私の事を心配して、追いかけてきてくれたんでしょ? それで今、こうして一緒にいてくれてるのよね。あなたは優しいから、『自分に付き合え』なんて言ってわがままなふりをして、私に付き合ってくれてるの」 「お前が気になったから追ってきたのは嘘じゃない。だけど、優しさとか、同情とか、そういう理由で来たんじゃないんだ」  タツキの返事は、いつになく落ち着いた、柔らかい口調だった。意外にも、彼女を前にしてもそれほど緊張はしていない。声が淀む事もなかった。 「――好きだから、来たんだ。悪いけど、幼なじみだからって意味じゃねえからな。誤解すんなよ」
/848ページ

最初のコメントを投稿しよう!

350人が本棚に入れています
本棚に追加