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クリアは大袈裟なくらいに目を見開いた。そして多分、何かを言おうとした。『多分』と表現したのは、実際には彼女が何も言えなかったから。彼女が何か言い出すより早く、タツキがその唇を、強引に奪ってしまったからだった。
クリアは彼に突然キスをされ、完全に気が動転したのかもしれない。んん、と声にならない呻き声を上げ、彼の胸を片手で何度も叩いた。ややあってタツキが唇を離すと、クリアの頬は林檎のように赤くなっており、おまけに瞳が潤んでいた。
「……ば、馬鹿っ!!」
「はあ!?」
「い、言ってるそばから何してるの! そういう事は、ほ、本当に好きな人にしか、しちゃいけないんだって教えたばっかりじゃない!!」
クリアは肩を震わせて俯き、脱力したように彼から離れながら、ゆるゆると首を横に振る。
「たっくんはそんな人じゃない……好きでもない人に、こんな事する人じゃ」
「だから今はっきり言っただろうが!!」
タツキに本気で怒鳴られ、今度はクリアが口をつぐんでしまう。もともとかなり気が強いタツキは、この程度で素直に縮こまるような男ではなかった。
「さすがによく見てるよな! そうだよ、好きでもなきゃわざわざこんな事しねえよ!!」
「で、でもティナさんは」
切羽詰まった表情で問われると、タツキは少し冷静さを取り戻し、ふう、と溜め息をつく。
「……とっくに振ってる。オレにその気がなかったから」
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