辿り着いた、その先に

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 クリアは文字通り固まっていて、暴れる様子もなかった。普段はあれだけ積極的にタツキに抱き付いてくる彼女が、今は別人のようにおとなしい。自分から抱き付くのと、タツキに抱き締められるのとでは、どうも感覚が違うようだ。  タツキにはその違いがいまいち解らなかったが、どちらにせよ、おとなしくしてくれた方が好都合だった。今、彼女を逃がす訳にはいかない。 「……恥ずかしいのかもしんねえけどさ。でも、嘘じゃないんだろ。オレが他の女と付き合ってたときまで、お前はずっと、オレを見てたんだろ。オレの事、当時の彼女ごと、受け入れてくれてたんだ。自分は一番じゃなくていいから、オレにだけ幸せになってくれって思ってたんだろ?」  普段は明朗なクリアが、自分の胸元でぽろぽろと涙を零しているのが判った。服が濡れるのを通して、彼女が閉じ込めていた感情が、自分の中に流れ込んでくるような気がした。いつの間にか、自分がそんなにも彼女を苦しめていたのだと痛感した。  『知らなかった』だなんて、言い訳に過ぎない。自分が何も知らなかったからといって、彼女を長年苦しめた事実が帳消しになる訳でもない。だからタツキは、自分を守るための言い訳を並べるより、彼女を両腕で抱き締める事を選んだ。 「……悪かった。それから、ありがとう。これからは、苦しくなったら真っ先に来い。どっから来たって受け止めてやる。どっから来たって、オレがお前を守ってやる。一番じゃなくていいなんて、言わせない」
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