辿り着いた、その先に

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 胸元で聞こえる鈴の音色は、あまりにも幸せそうだった。金色のソバージュに指を入れ、すくように撫でてやると、彼女は自分の腕の中で、くすぐったそうに身をよじらせる。  そのときに垣間見えた横顔の、赤みがさした頬を美しいと思った。屈託のない無邪気な笑顔が、何よりも輝いて見えた。いつの間にか、そんなにも彼女に惹かれていた自分に、改めて驚いた。 「ねえ、たっくん」  ほんの僅かな間、考え事をしていた彼を、クリアがいつの間にか見上げていた。童女のようにきらきらと輝いた大きな瞳が、彼の目の前で優しげに細められる。その表情は一瞬で、包容力に溢れた大人の女性のものに変わった。 「マナさんのお墓参り、今度は一緒に行こうね?」  澄み切ったような、とても優しい声だった。  彼女の声は、四千年もの間『前世の記憶』という名の孤独に縛られていたタツキにとって、女神の囁きのように聞こえた。クリア自身は、タツキが持つ前世の記憶について詳しくは知らないはずだが、もし知ったとしても、同じように受け入れてくれるだろうと容易に想像出来る。  タツキは返事をする代わりに、彼女の顎を片手で持ち上げ、再び口付けた。クリアは目を見開きはしたが、今度は逃げずにおとなしく身を委ねていた。  向かい側にある時計台から、鳴らないはずの鐘が鳴る。たまたま鐘を鳴らす金属の棒を戻しに来ていたレオンが、少々ばつの悪そうな表情を浮かべていた。
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