エピローグ

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 ――風の国。  うららかな陽気の空の下を、ティナは鼻歌を歌いながら歩いていた。今日は風も心地良く、彼女の足元で踊る茶色のショートブーツが、楽しげにステップを踏んでいる。  賑やかな露店の脇をくぐり抜ける彼女は、店主から声を掛けられれば笑顔で手を振った。ときには店先で煮込まれていたジャムを試食して、舌鼓を打つ。店主に勧められるまま、そのジャムをひとつ買ったティナは、空模様と同じくすこぶるご機嫌であった。  ジャムを手持ちの鞄に入れて、彼女が目指すはギルド本部。露店を抜けたあたりで、ティナは自分の目の前に、見覚えのある気弱な背中を発見した。背負った槍にすら迫力を感じられないほどの猫背だった。  ティナはすかさず走り出し、その背中を勢い良くバシンと叩く。思わずつんのめった黒髪の彼を、前に回ったティナが豪快に笑い飛ばした。 「やーい、驚いたー」 「なんだよティナぁ、いきなり押されたからびっくりしちゃったよ」 「あんたが気付かないのが悪いんでしょ? 大の男がこんな日に猫背だなんて、なっさけないわね。その槍は飾り?」  バートは背中をさすりながら、眉を八の字に垂れてティナを見た。
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