102人が本棚に入れています
本棚に追加
4
イズミは、アリアから受け取った箱の前で唸っていた。
ジャムはというと、夕食を終えた余韻にひたってうとうとしていた。
「なあ、ジャム。」
ジャムは目を覚まして顔を上げた。
「さっき、なんでぼくのことを、“イッくん”って呼んだんだ?」
「あ…。ごめんなさい…。」
ジャムは聞き咎められたのだと思い、目を潤ませた。
「違う違う、その呼び方が嫌だとか、そういうんじゃないんだ。ただ…ちょっと懐かしいなって思っただけだから。」
前にたったひとりだけ、イズミのことをそう呼んでくれた人が…。
「イッくん、はい。」
ジャムは手を差し出した。その手には鍵が握られていた。
「…ぼくにしかできないこと…か。」
“私は、どんな時でも絶対にあきらめない、そんなイッくんが…。”
(ここで逃げたら、またあいつに叱られるな…。)
イズミは鍵を箱の穴に差し込んだ。
ところが、差し込んだきりひねりもせずに動きを止めた。手を離して、頭を抱えた。
「…イッくん?」
「大丈夫。ちょっと疲れてるみたいだ。…もう寝る。」
そう言って灯を消して、ベッドの上に寝転んだ。ジャムも元々半分寝ていたので、床に新しく敷いてもらった布団に潜って十秒後、もう寝息を立てていた。
イズミは布団の中で膝を抱えて丸くなった。
(この感じ…あの時と同じ…。)
熱くて、苦しくて、だけど誰も気付いてくれなくて…。
(助けて…イヅミ…。)
最初のコメントを投稿しよう!