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ここは海岸だ。
砂浜に、二つの人影があった。
オレンジ色に染まる冷たい潮風が、彼らの火照った体に優しく触れた。時は夕暮れである。
一人は砂の上に座り込んでいた。長い髪を、後頭部の高い位置で束ねた少年だ。服には砂があちこちに付着しており、手には長い鎖が握られていた。その少年は、大きく肩で息をしていた。
もう一人は対照的に、きちんと立っていた。頭に巻いた花柄のバンダナからのぞく黒色の髪は一本たりとも乱れていない。この少女は、少年を見下ろして、少々呆れ顔で言った。
「十戦十敗だよ、イズミ。」
同じ年に、同じ日に、同じビュウに入隊した、少年イズミと少女リア。入隊後、約一年間で行われた計十回の練習試合の結果がこれである。イズミにとってその屈辱は、並大抵のものではなかった。悔しさよりも、怒りの方が勝ってしまうのだ。
イズミは打ち切れた。
「お前、なんでそんなに強いんだよ!」
「当たり前でしょ。あたしはビュウに入るずっと前からおにいに鍛えられていたんだから。訓練を始めて一年のイズミに負けるはずがないよ。」
おにい、つまりリアの兄は、キャシール村防衛隊として設立されたビュウの三代目隊長フェザー。力も頭脳も人より優れ、皆が慕っている真のリーダーである。イズミが最も尊敬し、最も信頼している人物だ。
だから尚更、である。
「畜生!!」
イズミは海に向かって叫んだ。
「いつかリアに勝って、隊長の弟の座をとってやる!!」
それはどう考えても不可能なことである。こういうことを引かれ者の小唄というのだろう。しかし、その言葉を聞いたリアは、夕日に染まった顔を隠すようにイズミに背を向けた。
「何言ってるのよ、バカ!」
リアはそう言い残して、何処かへ走り去った。
「なんなんだ…あいつ。」
リアが怒った理由なんて、イズミに理解できるはずもない。
「よーし、今日も頑張るぞ!」
誰も聞いてやしないのに意気込んで、イズミはいつもの場所まで駆けて行った。
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