第三話 火中の栗を拾う

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「連行…?どういうことだ。」 「そんなこと、ビュウであるあなたに言う必要は…。」  ない!という声と共に、ランは後ろに回していた右手を素速く前に出した。  何かが、イズミの体の中心目掛けて飛んだ。  目のいい者なら、それが何なのかは一瞬でも判断できる。そうでない者は、ただ赤いものとだけは分かる。その両者の中間地点にいるイズミには、それは火の玉に見えた。  チャリ。  イズミは鎖を引き抜いて、火の玉を払った。払われた物体は、両者の丁度間に落下した。地面に触れた瞬間に火は消え、物体の正体が分かった。ほとんど焼け焦げていたが、確かに矢の形をしていた。 「ふーん。今のを打ち落とせるなんて。子供のくせになかなかやるのね。」  ランの手には新たな矢が握られていた。矢は普通、弓で引くものだが、ランは素手で投げていたらしい。  イズミは鎖をしっかりと持ち直した。右手で鎖の端の、二尺ほど入った位置を握り、それを軸にして、ぶんぶんと回した。回転速度が上がるにつれて、風を切る音が高らかに響き渡った。 「ジャム、走れ。」  イズミはランに聞こえないよう小声で言った。 「ぼくがあいつを引き付けるその隙に、お前は村まで全力で走れ。」 「でも…それじゃ…。」  イズミが危険になる。それは十分承知だ。だが、今はそれしか方法はない。二人とも、無事に村へ帰れる方法は、それしかない。ジャムを庇いながら一緒に逃げることなど、相手が相手なだけに不可能だ。ならば、ジャムを先に村に行かせて、誰かに応援に来てもらうことが一番なのだ。
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