第三話 火中の栗を拾う

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 ランの重心が動いた。それがスイッチとなった。鎖が、回転の勢いを保ったまま、ラン目掛けて突撃した。宙を切って直進する。ランはいとも簡単にジャンプして交わし、木の枝に掴まった。空振りした鎖だったが、イズミが右手を引くと鎖は跳ね上がって、ランの掴まる枝を折った。軸を失ったランは当然落下する。地面に着くまでは何もできなくなる。 「行け!」  ジャムは、イズミの言葉通り、きびすを返して走り出した。作戦の意味を自分なりに考えたようだ。 「待ちなさい!」  ランはジャムを追った。追おうとした。だがその足は、絡みついた鎖によって動きを封じられていた。 「あなた、私を足止めできるとでも思っているの!?」  ランの言葉に鋭さが加わった。鎖が絡まった足を上げると、大きく後方に引いた。もう一方の端をしっかりと握っていたイズミは、鎖に引かれてバランスを崩した。ランはその一瞬の隙を見抜いて素早く足の鎖を解くと、風のごとくイズミの傍に来ていた。そして、イズミの綺麗な長い髪を鷲掴みにして、近くの木の幹に押さえつけた。  イズミにはまるで用がないというように。  ランはイズミの鎖を使って、イズミを木の幹に貼り付けにした。鎖でぐるぐる巻きにされてしまっては動きようにも動けない。それなのに、髪を掴んだまま放さなかった。 「あなた、男の子でしょう?なのにずいぶんと髪を大事にしているのね。防衛隊の一員なら、長い髪は任務の妨げになると、知っていて当然よね。」 「…何が言いたいんだよ。」  イズミが髪を伸ばしているのは、隊長への憧れから。隊長のように、強くて優しい人になりたくて願掛けしているのだ。髪が長くたって隊長になれるんだ。現に隊長の髪は腰の辺りまで掛かっている。  ランは少し大きめの矢を取り出した。 「この邪魔な髪、私が切ってあげる。」 「……!」  イズミは動けないにも拘わらず暴れようとした。大事な髪を切られてたまるものかと。けれど、自分の思うように動けないのだ。鎖で拘束されていることもあるが、何か別の理由もあるようだった。 (…力が入らない…。やっぱり雨に打たれたのは…。)  ランは、矢尻を束ねた髪の根元に当てた。 「や…やめ…。」
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