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その人の気持ちは本人以上に、近しい人の方が良く知っている。
【774著:俺語録】より抜粋
魔「いい天気だな」
愛用の箒に跨がり、風を切って飛ぶ。
空は雲一つどころか一欠片も無いこの上ない快晴で、日射しが少し暑いが、飛ぶことで生じる空気抵抗で涼しいから気にはならない。
魔「……っとと、到着」
風を感じていたら危うく神社を通りすぎるところだった。
境内に降り立ち、神社の主を呼ぶ。
魔「霊夢ー! 遊びに来たぜー!」
少しすると、障子の向こうから暑さに参ってしまっている巫女が出てきた。
たれ〇パンダならぬ、た霊夢だな。
霊「遊びに来たって……何の用?」
魔「いや、だから遊びに来たんだってば」
霊夢は私の返事に「やれやれ」と言った感じに頭に手をやって、小さく溜め息を吐いた。
なんだよ、別に変なことは言ってないだろ?
魔「そんなことより、ここの神社は客にお茶の一つも出さないのか?」
霊「あんたは客じゃないでしょうが……今持ってくるわよ」
のそのそと起き上がり、奥へと消えていく。
お茶が出てくるまで石段に腰を下ろして待っていると、誰かが神社にやってきた。
魔「んー? あ、あいつか」
参拝客かと思ったが、予想通り違った。
男「ん? よぅ、お早うさん」
魔「もうこんにちはの時間だぜ」
男「そうかい」
半年ほど前だったか、紫が暇潰しと称して『日本』とかいうどこか別の世界から拉致してきた人物、それがこいつだ。
当初、霊夢は激怒して紫に即刻帰すように言ってたが……
男「あぁ、ここは神社なのか……」
その時こいつが入れた賽銭の金額で、急に態度を変えやがった。
霊「ほら、お茶飲んだらさっさと……あら、男」
男「どうも」
『男』とはこいつの名前だ。変な名前だとは思ったけど、今では馴染んだ名前だ。
霊「折角だし、お茶でも飲む?」
男「いや、帰るよ」
金色の硬貨を二、三枚入れて、男は帰っていった。
魔「おい、私の時と随分態度が違うぞ」
霊「この世は資本主義なのよ」
なんだか納得したような、そうでないような……。
釈然としないまま温いお茶を飲んで、神社を出て再び空へと飛び立った。
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