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―――深夜。
暗闇の世界にぽぅと浮かび上がる、青白く輝く満点の月。
月の柔らかい光が、寝静まった街に優しく降り注いでいた。
季節的にまだ少し肌寒い夜風だけれど、個人的には夜の散歩にうってつけだと思う。
そんな、静かな夜だった。
…少なくとも、客観的に見たらそうなのだろう。
ただしそれも、この場面を見た奴なら誰しもが、“静かな夜”だ何て言えなくなるんだろうな、きっと。
現実離れした世界。
けれどもオレには、この現実離れした世界が現実で。
こんな醜い自分が生きている、裏の世界だから。
「…くそっ」
改めて自分の姿を確認した際、思わず眉が寄った。
場所は、嗅ぎなれた血生臭い異臭が立ち込めた一室。
家具や壁等に飛び散った血液が、無駄に豪華な部屋に紅を飾っている。
問題なのが、飛び散った血がオレのお気に入りのブーツにも飾られてしまっている事だ。
当然の事ながら、それはオレの血ではない。
何処も痛くないし、第一こんな程度の相手に傷を負う様なヘマはしないからだ。
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