62人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
なら、この血は一体誰のかと言うと、このホテルのスィートルーム……オレからしたら無駄に豪華な部屋に泊まっていた男のだ。
ちなみにその男は、そこの赤く染められたベッド脇の床に転がっている。
やや不満を込めた視線をベッド脇の床に投げかけると、そこに在るのは―――首無しの死体。
今現在、オレの足元に首無し死体の頭部が転がっている。
五十代位の肥えた男の顔。
死に際の表情から恐怖に醜く引き攣り、眼をカっと見開いたまま絶命している。
そんな不気味窮まりない生首が、足元から真っ直ぐオレを見上げているのだから良い気はしない。
この男の死に、罪悪感は微塵も感じない。
どうせ、この男も今までの奴みたいに何か人の恨みを買う様な事をしていたのだろうから。
ただ、さっきまでこの男が生きていた時の事を思い出すと、どうにも哀れに感じてしまう。
死にたくない気持ちは解るぞ。
こんな危ない仕事をしているけど、オレだって死が怖くない訳じゃないしさ。
でも、あんなに生に執着した醜い姿を見ると、同じ人間ながら何とも情けなくなってしまう。
まあ、だから抵抗も激しかった訳で…。
本当に不覚で、不快ながら、返り血を浴びてしまったのだが……。
「……何時まで見てんだよ」
殺された怨みか。今もオレに怨みの篭った眼で睨み付ける様に見てくる男の生首を、血溜まりに沈む持ち主へ蹴飛ばした。
……もとい、返してあげた。
.
最初のコメントを投稿しよう!