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アパートの扉の前
彩月はバッグを逆さまにし、ジャラジャラと鍵を探す。
「あった、あった」
『鍵ぐらいすぐ取り出せる所に入れといてください』
「エヘヘ‥ごめん」
彩月は舌を出して笑った。
ガチヤ‥
「どうぞ」
『あ、いえ…私は帰ります』
「どうして?」
『送るだけですから』
「……そう」
『今夜は有り難うございました。久しぶりに楽しいお酒が飲めて良かったです。
それでは…おやすみなさい』
仁は彩月に一礼してニコッと笑うと、振り返りエレベーターの方へ歩き出す。
すると…
「仁さん!!」
彩月は叫ぶように呼び止める。仁は立ち止まり静かに振り向くと、そこには両目に涙をイッパイに溜めた彩月の姿があった。
『どうしました?』
「一緒に…居てほしい…」
『知ってますよ。だから私は帰るんです』
「居てくれるだけで良いから…。
一人は嫌なの…迷惑は掛けないから…。
せめて私が寝るまで一緒に居て…」
『………』
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