4人が本棚に入れています
本棚に追加
山の中、川で子供が水浴びをしている。母親は川原で微笑んでいた。
「お母さん、何か流れて来た」
子供が拾い上げたそれは、桃色の綺麗な花びら。見るとそれは川上から幾多もの群れをなして流れて来ていた。
「本当、綺麗ね。今年の桜も終わりの季節よ」
川原で母親が返事をした次の瞬間、子供の周りが赤く染まった。澄んでいた川の水もそこだけは真っ赤に染まり、少なくとも母親には何が起きたのかはわからなかった。
みるみる内に赤は川を侵食していく。それが何を示すのかだけが、母親の知ることの出来る唯一の情報だった。
「そ、そんな……」
川を侵食する赤。それに平行するように流れる桜の花びら。一人の子供を犠牲に作り上げた一つの芸術がそこにあった。
子供はいつしか母親の目の前から消えていた。残ったのは、我が子を犠牲に自然が作った赤と桜の川と、狼狽する母親の姿だけだった。
「きゃあああああ!」
最初のコメントを投稿しよう!