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その情景が浮かんだのは、新しく入ったというパートの女が、記憶の中の彼女にうっすら似ていたからかもしれない。もしくは、店の前に並ぶ桜たちが、そろそろピンクの花弁の存在をアピールしはじめたからかもしれない。
まるで早送りのビデオのように、映像が次から次へと、頭の中を駆け巡っていく。
そのスピードに俺は呆然とし、呆然としているゆえに、それをありありと眺めることができた。
緑の芝生。真っ暗な空。ライトアップされた桜。その下に横たわる、少女。
コブチ
「古淵くん?」
映像がぷつん、と切れる。背中に棒でも刺されたように、背筋がピンと伸びた。
「あ、はい」
うつろに返事をすると、目の前に立つ店長は、不信な眼差しで俺を見た。
「どうかしたのかい?」
「いえ、なんでもないです」
「そう? ああ、それでね。このひとが新しい店員さん」
気を取り直したように、店長は隣に立つ女性を手で指した。
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