桜狩り倶楽部

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   マツモト 「松本です」  女性が頭を下げる。柔らかい声だった。俺も会釈を返した。          コブチ アキラ 「松本さん、こちら古淵 晃くん。ここで働いて長いから、いろいろと教わってくれ」  快活に笑った店長は、自分では面倒を見る気はまったくないのだろう。それはいつものことなので、俺はただ黒目を斜め下に下ろした。 「それじゃあ、古淵くん。松本くんに仕事のノウハウとやらを、しっかり叩き込んでやってくれよ」  バシバシと俺の肩を何度か叩き、メタボな腹を揺らしながら、店長は奥の事務所へと消えた。「はあ……」という俺の返事を、聞くことすらせずに。  薄い横髪を必死に伸ばし、いわゆるバーコードにしている店長が、他人の話をろくに聞かないのもいつものことだ。俺も特に気にせず、松本さんに向き直った。 「というわけで、よろしくお願いします。仕事はレジや納品、トイレ掃除など。なかなか大変ですけど、あまり気負いすぎずにやってください」  
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