86人が本棚に入れています
本棚に追加
金額の打ち方や、紙幣の取り方などを松本さんに教えながら、俺はやはりあの情景を思い浮かべていた。
神秘的な光景だった。
神秘的で、怪しくて、恐ろしくて──、そして美しかった。
「ねえ。人を殺してみたいと思わない?」
急に彼女にそう話しかけられたのは、放課後の教室でだった。
夕暮れ時で、俺と彼女は日直の仕事をしていた。
「は?」
そんなことを言われれば、普通面食らう。俺も当然、眉を寄せて彼女を見た。
キノシタ ミユキ
しかし彼女、木下 美雪は、爛々と目を輝かせて、続けた。
「あたしを殺したいと思わない?」
この時まで、俺の中での彼女は“明るい優等生”であった。
見目麗しく、はつらつとして、勉強もでき、だれにでも分け隔てなく、人望も厚い彼女。
俺のみならず、美雪を知る人間は、大抵彼女をそういう人物として見ていた。そして彼女も、そういう人物として振る舞っていたはずだった。
最初のコメントを投稿しよう!