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けれどこの瞬間、彼女のイメージは一瞬にして塗り替えられた。
病んでいるひとだ、と思った。彼女は“病んでいるひと”だと。
きっと、彼女の心は疲れてしまったのだろう。
可哀想、というのが、俺の抱いた感情だった。
「死にたいのか?」
問うと、美雪の唇が孤を描いた。
「ううん、“ごっこ”がしたいの」
「ごっこ?」
「うん、殺人ごっこ」
彼女が病んだ人間であるということが、確固たるものになった台詞であった。
吐き気のようなものが湧き上がり、俺は顔を歪めた。
「なんでそんなことがしたいんだ?」
「見てみたくない? ひとが死ぬの」
「全然」
「そう? あたしは見てみたいわ。だってとっても不思議じゃない? 生きて動いていたはずの人間が、もう永久に動かなくなるのよ。そこに生きていた“人”が、ただの“物”になるのよ。なんて不思議なの。神秘だわ」
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