桜狩り倶楽部

7/20
前へ
/20ページ
次へ
  「…………」  こいつを放っておいたら間違いなく犯罪者になる、と思った。  俺は小さく長く、息を吐いた。  俺の机と美雪の机。その向こう側の彼女が、いやに遠く見えた。  落ち着け、と自分に言い聞かせる。病んだ人間相手に熱くなっても、いいことはない。 「じゃあ、なんで自分が死ぬことになるわけ? ひとが死ぬ瞬間が見たいんだろ。なのに自分が死んだら意味ないじゃないか」 「だから“ごっこ”なんだって」  ひらひらと手を振りながら、彼女はなんでもないことのように言った。 「ただ、やってみたいだけなの。人命なんて重いものを、簡単に扱ってみたいの」 「簡単に、って……」 「本当に死んじゃったら大変じゃない? だから“ごっこ”でいいのよ。ふざけて遊びたいだけ」 「それで殺人ごっこ? 悪趣味すぎないか? もっと楽しそうな“ごっこ”でもあるだろ」 「たとえば?」 「恋人ごっこ、とか」 「却下」  のけぞるように椅子に体重を預け、美雪は言い捨てた。  
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

86人が本棚に入れています
本棚に追加