由加(ユカ)の場合

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「そう、“司書さん”さ。ちなみに、トムヤン君とか、リヴァイアさんとか、セバスちゃんとか、ポセイどんとか、ナポリたんとか、スコっちとか、イカ様とか、オール殿下とか、そういう物とは違──」 「意味分かんないし……いいから早く話を進める。あんたも暇じゃないんでしょ?」 「暇に決まってるじゃないか。僕が読書と昼寝と無駄話と栞作り以外の事をしてる所、サリジェ、君は見た事あるのかなあ?」 「…………」  大袈裟に両手を広げ、やれやれと首を振ってみせる司書さんさん。  無論、視線は膝の上の本に落としたままではあるが。  それに対し、突っ込みを入れたはずのサリジェはシカトを決め込み、それを返事代わりとした。  本当に相性が悪いようである。  と言うよりも、あまり彼には関わりたくない、そんな意思表示にも取れた。 「急に黙っちゃって……恥ずかしがり屋さんなんだねえ」 「黙れ、この腐れ青頭っ!」 「やだなあ、黙ったら君をおちょくって遊べないじゃないか」 「~~~~ッ!!」  沈黙とサリジェの心の平穏は、速攻で打ち砕かれた。  打ち砕いた上で叩き潰すんだから、始末が悪い。  恐るべき挑発センスである。  どう見ても、力関係は歴然のようだ。  侮り難し、司書さんさん。  この人に勝てる人が居るとしたら、口先の立つ私の彼氏くらいかもしれなかった。 「ああ、あの威勢の良い小柄な彼ねえ。似合わない鎖のアクセサリを身に着けた──彼にはさっき、泣いて土下座させたけど、悪い事しちゃったなあ。でもまあ、自業自得だし」  …………。  耳を疑った。  整理して、吟味して、判断して、結論を下した上で、疑った。 「はい!? 泣いて土下座!?」  あり得ないあり得ない、何をやったらそんな事になるんだろう!  混乱する私の顔を、彼はようやく“見た”。  顔を上げた。  読書を切り上げた。 「ようやく喋ってくれたねえ。ずっと僕を警戒して黙っていたようだったから、困っていたんだよ。僕だけが喋っても会話は成立しない、そうだよね──加賀由加さん?」 「あ、はい……」  真面目な話をしながらも、彼はにやにやと薄笑いを浮かべている。
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