由加(ユカ)の場合

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「はは……やっぱりそうなんだ……」  その答えを予想していたにもかかわらず、私の口から漏れたのは渇いた笑い声だった。  消える。  私がこれまで培ってきたもの全てが。  それが予め定められていたシナリオ通りの作り物であったとしても、私にとっては大切なそれらが、全て、キエテシマウ。 「待って! その本──」 「これは決定事項なんだよ。図書館長さんの決定は、僕の一存では覆せないんだよねえ」 「そんな! だって皆が! 家族が! 友達がっ!」 「どうにもならないと言ったよ。壊れた本の破棄も僕の仕事の内でねえ……第一、君も家族も友達も先生も先輩も後輩もライバルも、全て架空の存在じゃないか」  司書さんの口が開く度に飛び出す言葉一つ一つが、私の胸に深々と突き刺さっていく。  目の前が真っ暗になっていくのは、心が血を流し過ぎたからだろうか。 「それにね、本の崩壊と共に登場人物は全てワームに巻き込まれて本の外に排出されたんだ。その後の事は、“君達”ドールの方が詳しいのでは?」 「……何でこんな……酷……」 「僕に言われても困るなあ」 「大体、ドールって何!? そいつらが悪いの!? 何でこんな──」 「それは、ゆっちゃんも分かってるでしょう? 真実を知ったから、貴女は蒼井大樹君じゃなくりっぴーに味方した、違う?」  唐突に話に割って入ってきた彼女──サリジェの言葉に、はっとする。  その瞬間、今まで静かにしていた“皆”が、再び声無き声で一斉に騒ぎ出した。  情報の津波が私の脳内を蹂躙していく。  …………。  そう、“私達”ドールには、助けなくてはいけない多くの同胞が居る。  リピテルが平凡な恋愛小説中にはあり得ない戦闘行動を意図的に起こし、主人公がシナリオに無い行動を取った──あの本の中に致命的な矛盾をもたらした為に、本は理を維持出来ずに崩壊したのだ。  リピテルによって穴だらけになった本から放り出され、本と図書館の狭間を彷徨った私は、同じく狭間に放り出された無数の名も無き者達に憑依されてしまった。  彼等は姿の描写すら貰えなかった、幽霊のような存在。  だから、私のように形ある者に取り憑くなんて、造作もない事だ。
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