由加(ユカ)の場合

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 司書さんは何も言わず、ただ私を見守るばかり。  そして、ようやく“加賀由加”は一つの結論を導き出した。  大樹のように冷静に、整理して、吟味して、判断して、結論を下した結果じゃない。  加賀由加としての気持ちと名も無きもの達の“無”意識との折り合いの付く所に落ち着いた、それだけの事である。  後は、言葉にして伝えるだけだった。 「ごめん、サリジェ……さん。私、貴女達の仲間にはなれないや」 「どうしても?」 「うん、だってドールはまだまだ沢山の本を壊さなきゃ駄目なんでしょ? たぶん、永遠に」 「まあね、でも私達はそれを強要したりはしないよ」 「……ありがと」 「でもね」  彼女も顔を上げる。  真っ直ぐに私を見据える。  真摯な瞳が臆病な私を射抜く。  そこには、強い意思があった。 「蒼井大樹君側につくなら、私はゆっちゃんを討たなきゃいけない。分かるよね?」 「私は大樹とは戦うよ」 「そう」  その答えを予め知っていたとでも言わんばかりに、サリジェの声は欠片の疑いの色も含まれてはいなかった。  大樹と赤い子は間違ってる。  だから、私が正さなきゃ駄目。  私が正す?  違う、私が殺さなきゃいけないのだ。  登場人物という器を逆さにひっくり返し、中身を空っぽにしなくてはいけないのだ。  彼は頭が良い。  だから、大樹もドールになれば、絶対に自分の間違いに気付くはずである。  ただ──彼を手にかけるのは、私でありたい。  これだけは、他の誰にも譲れない事だった。  だから、“加賀由加”は一人で戦う。 “一にして全なるもの”は、たった一人で彼と戦い、勝利しなくてはいけないのだ。 「そ、分かった。私達の邪魔をしないなら、見逃してあげる。彼と上手くやりなよ?」  そう言って、彼女は荷物をまとめだした。  機械弄りも途中で切り上げたまま、作業中の小道具を両手に抱えて立ち上がる。 「縁があったらまた会おうね。あ、こっち側に来る気になったら言ってちょうだい。私達ドールは、いつでも貴女を歓迎するから」  仲間として、そして家族として。  それだけ言い残して、彼女は一人で行ってしまった。
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