由加(ユカ)の場合

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 そのまま薄暗い通路の奥に消えてしまった。  爪先を金属補強したブーツによる床を踏む甲高い足音が、ゆっくりと遠のいていく──  それを黙って見送る私。  これで、私は本当に一人ぼっち。  大樹をドールにするまでは、一人で何とかやっていかなくちゃいけない。 「さて」  なんとなく世界の絡繰りが見えてきた事だし、私もこれからの事を色々決めなくてはいけない。  私も決意も新たに立ち上がった。 「おぉい」  これからどうしようか。  大樹もここに来たのなら、まだこの辺りに居るかもしれない。  早速ちょっかいを出してみるべきなのだろうが、その為には彼の居場所を探し出す必要がある。  この広大な図書館内から。 「もしもーし?」  ダメだ。  私なんかが一人で行っても、絶対に大樹に言いくるめられてしまうに決まっている。  赤い髪の子も黙って大樹を渡してはくれるとは思えない。 「図書館内での敵対勢力との接触は禁止だからね?」 「えっ、そうなの!?」 「……聞こえてるなら、返事して欲しかったなあ」  不服そうな司書さんさんなのだった。  ああうざい…… 「あのねえ。図書館ではお静かに、子供でも知ってる常識だよ? 戦闘行為は勿論、交渉や議論、偵察等の接触も厳しく処罰するから。僕を通さず、絶対に勝手な真似はしないように」 「処罰ねえ……なに? 罰金でも取るの? その本を捨てられちゃったら、私はもう失う物なんて無いんだけど」  急に柄が悪くなる私なのだった。  自棄になった人間は、ここまで投げやりになれるんだな、と我ながら感心してしまう。  いや、人間じゃなくてお人形なんだっけ。  そんな私の悪態に、しかし司書さんは涼しい顔のままだった。 「いや、規則を守れない方には、本気で叱るよ」 「はあ?」 「怖いよお、僕が本気で怒ったら。変身とかしちゃったりするかも? 泣いて土下座するまで許さないよ?」 「上等じゃない。私はもう怖いものなんて無いし、規則なんて知った事じゃないかな。鎖のアクセを付けた男の子を泣かした? 誰それ。相手が蒼井大樹って名前じゃなければ、私にだって簡単に出来るけど」
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