由加(ユカ)の場合

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「黒髪の短髪と深い焦茶色の瞳、やや童顔で身長は君と同じ位。恋愛物のヒロインが憧れるには、ちょっと控え目の外見だね。服装は、緑の半袖パーカーに白いシャツ、青いハーフパンツに明褐色の革製安全靴。首からチェーンのアクセサリを下げ、同系統の品を腰にも着けていたっけ。彼、無節操に小物を集める趣味があるみたいだけど、センスはよろしくないようで、身につけたアクセサリーはあんまり似合ってはいなかったなあ」  次々に飛び出す司書さんの言葉に、むう、と唸る私。  悔しいけど多分それは大樹である気がする。  けれど、その程度の言葉じゃ今の私は怯まない。 「だいたい……変身? どこかの宇宙人みたいに髪を金色に逆立ててパワーアップとかしてみる? バッカじゃないの? 私はやりたいようにやる。邪魔するなら、誰であろうと容赦しないよ」 「やれやれ、中身はとんだじゃじゃ馬じゃないか。少しお灸を据えてあげる必要がありそうだねえ。面倒臭いなあ……これだから最近の若い子は」  じじ臭い文句を言いながら、司書さんさんがこちらを睨みつけた。  私の視界がぐにゃりと歪む。  世界が一変した。  とても怖い目を見た。  すぐに泣いて土下座した。  その後に、サリジェが“逆らっちゃ駄目”と言っていた事を思い出した。  が、それは既に後の祭だった。  …………。 「分かれば良いんだよ、分かれば」  司書さんさ……司書さん様は何事も無かったかのように、にこにこしながらこちらを見ている。  何だったのだろうか、今のは。  卑怯とかいう次元ではなかった。  反則だ。  言うなれば──いや、あんな物は言葉にするのもおぞましい。  二度と見たくないし、思い出したくもない。  ……さっき見たものは忘れよう。  そう心に決め、私は忌まわしい記憶にふたをした。 「うう、困ったなあ……大樹への手出しは禁止かあ」 「そんな事は無いさ。本の中へ誘い込めば、そこで何をしようと僕の知った事じゃないからねえ。場所が館内でなければ、僕は干渉するつもりは無い──たとえ本が破壊される事になろうとも、僕には関係が無い」 「“司書”なのに?」 「“司書さん”だもの」
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