千空(チカラ)の場合 1

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 ……かつん。  存在しないはずの足が形を成し、通路の硬い床を踏み締める。  四人にとっては唐突に現れたように見えたかもしれない。  しかし、あたしは確かに元からここに居たものだ。  そうあるべく望まれれば、望まれた通りの形でのみ存在できるもの。  そして、この世界そのものが欲する姿こそが、今のあたしに他ならなかった。  黒服達がいち早くあたしの出現に気づくが、時既に遅し。  一人の顔面が圧壊するのと、一人が胸部に大きな風穴が空くのは、ほぼ同時。  それは、本能的に危険を察知したのか、あるいは絶命した二人よりも高い処理・反応速度を有していたのか。  残った一人があたしから距離を取るべく、一歩だけ下がる。  それが決め手だった。  たとえ偶然だったとしても、それは生き残る為の選択としては、正解。  あたしはそちらに向かって攻撃を放てない。  何故なら、それを望む者がいないから。  だからあたしは……そう、困ったんだ。  困って、動きを止めてしまったのだ。  はじめて躊躇という概念を体験し、それが隙となる。  時間にしてみれば、刹那の事であったろう。  しかし、彼女にとっては十分過ぎる時間と言えた。  視界の外から白い塊があたしを襲う。  全身が沸騰するかのような感覚を味わった瞬間には、実体化していたあたしの四肢は既に消滅した後だった。  冷静に分析するなら、あたしの想像を上回る高出力による熱収束射撃兵器、と言った所か。 「アンノウンの消滅を確認」  上半身の半分を砲身へと変形させた白い少女は、あらかじめ決められた手順通りに上半身を変形させ、元の形状へと戻っていく。  いいだろう、サイボーグ。  今回はあたしの負けだ。  これで一勝二敗、しかし次は同じ手を食う事もないだろう。  実体を失ったあたしは負け惜しみを呟く事も出来ず、その独白は空気を振動させる事無く虚空に消えた。  実際の所、勝ち負けなんてどうでも良いのだ。  自分が一体どういったものなのか、流石に三度も実体化すれば何も知らないあたしにだって、何となく分かってきた。  だから、今回の実験は大成功。  勝手が分かればどうという事はない。  これからは好きにやらせて貰うとしよう。
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