大樹の場合 1

8/15
前へ
/135ページ
次へ
 しかしこいつ、脚力に負けず劣らず、腕力もとんでもねーわ。  本当に人間なのだろうか、と疑いたくなる。 「……時間? お急ぎなら俺達に構わず、お先にどうぞ」 「馬鹿を言わないでください、私は貴方達に用があるんです!」  怒られてしまった。  律儀な奴だなあ。  まあ、どう考えても俺達に用があるってのは間違い無さそうではあるが。 「いいから、私の質問に答えてください。大人しく答えれば、危害は加えません」 「それって、強盗とかの要求とあんまり大差無──いてっ!?」  危害を加えられた。  と言うか、拳が飛んできた。  この腕力に違わぬ確かな威力。  ヒットした頭がクラクラする…… 「好きな子にこそ意地悪したくなるって言うけど、君もそのタイプ──んがっ!?」 「…………」  再び無言のまま危害が加えられた。  しかもさっきより威力が増していた。  このチビ、本当に容赦が無い。 「ちょっと、止めてよ!」  再び俺の頭に拳が打ち下ろされたのを見て、由加が我に返り、止めに入ってくれた。  彼女が逃げる隙を作ったつもりだったが、嬉しくもある。  複雑な気分だ。 「由加~、獰猛な怪獣から俺を助けてく──うお、危ねえっ!?」  三度目の危害が加えられそうになった。  今度は本気のフルスイングだった。  耳元ですげぇ風切り音が聞こえたぞ……身をよじってなかったら、ヤバかったかも。  そろそろ真面目にやらないと、俺の頭が潰れたトマトになりかねなかった。 「大樹も巫山戯てないで……何? この子、危なくないの?」 「すっげー危いけど、従えば危害を加えないってのは嘘じゃないと思う」  素直に答えてみた。  少なくとも俺が余計な事を言わなきゃ、本当に危害を加えたりはしないだろう。  少女の突き刺すような視線は、あえて無視。 “すっげー危い”と思うのは本音だし。 「本当にちゃんと質問に答えたら、もう追って来ない?」 「約束します。いえ、目的さえ果たしたら、二度と貴方達の前に姿を見せないと誓いましょう」  由加がちらりと俺の方を見る。  嘘は無さそうだ、と俺は首肯で答えた。 「分かった、じゃあまずは大樹を放してあげて。そんなじゃ、誠意を持って答えてあげられないじゃない」
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加