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空っぽになって久しい胃袋を満たさんと、ひたすらに食べる食べる食べる──
少年の食べっぷりに気を良くしたルフは刺身以外の注文も始め、テーブルの上は、脂の乗った柔らかな肉、瑞々しい野菜、香ばしい穀物、独特の旨味が出たスープ、そして甘いにもかかわらずサッパリしていてクドくないデザートなど、極上の料理が次々に並べられていった。
彼らがそれを平らげたのは、まさに二時間も後の事である。
「う、美味かった……こんなに美味え飯は食った事が無え」
「だろう? 素材も確かに良いが、何と言っても叶の腕だ。あれは美味い物しか作れないのかもしれんな」
少年による手放しの賛辞に、ルフも御機嫌だ。
厨房から覗く汗だくになった叶も、どことなく頬を緩めているように見えた。
ただ、それは当事者達に限った事。
パーカーの少年に同伴していた赤髪の少女は相変わらずの仏頂面で、料理にも全く手はつけていない様子であったし、他に店内に居た客達はといえば、とうに会計を済ませて店を後にしている。
二時間の間には新たに入店しようとした客も何組かいたが、店内の様子を見るなり回れ右して退散する始末だ。
が、食べる事に集中していた少年には料理しか見えていなかったし、少女の方は回りの事を気にする気配すらない。
そう。
気がついた時には、全てが手遅れとなっていた。
「さーて、そろそろ行くか。おい恩人、えーと──」
「名前か? 俺は大樹(ヒロキ)。蒼井大樹だ。こっちの赤頭はフィー」
「ヒロキだな。で、恩人」
「結局、名前では呼ばないんだな……いいけどさ。何だ?」
「俺はこれからヘドゥオよりももっと美味くて珍しい食材を捕りにいくつもりなんだが、どうだ? 手伝わないか?」
無論、大樹と名乗った少年の返事はイエスだった。
音速を超えんばかりの即答だった。
が、それに対してあからさまに不快そうな顔をしたのが、フィーと紹介された少女の方。
椅子から立ち上がり、彼女はテーブルを両手でバン、と叩く。
「いい加減にしてください! これ以上の関与は、本当に物語に対して悪影響を及ぼしてしまいます!」
しかし、大樹はと言えば涼しい顔のままだ。
「大丈夫だって。今の所、あのトリ野郎が出て来そうな気配は無えし、ワームが発生する兆候も無え。フィーは気を張りすぎなんだよ」
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